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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)1473号 判決

大阪市北区天満橋筋一丁目四五番地

上告人

青木メリヤス製造株式会社

右代表者代表取締役

藤田春美

右訴訟代理人弁護士

水田猛男

大阪市北区中之島四丁目一五番地

被上告人

北税務署長

佐々木新次郎

右当事者間の法人税等再更正決定取消請求事件について、大阪高等裁判所が昭和三五年九月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水田猛男の上告理由第一点について。

しかし、原審がした所論判断の附加の事実認定は、原判決挙示の証拠関係からみて首肯し得なくはない。論旨はひつきよう原審の認定に副わない事実をもとにして原判決に所論違法がある如く主張するものであるから採るを得ない。

同第二点について。

論旨は、上告人は昭和二七年度の法人税について青色申告の承認を受けたということを前提とするものであるが、かかる事実は原審の認定しないところである。

昭和二七年五月二七日に申請書の提出があつた事実は、原審も肯認するところであるが、よつて青色申告の提出ができるのは昭和二八年度からであると解すべきであることは、原判示のとおりである。法人税法二五条三項の提出期限に関する規定が訓示規定であるとする所論は、独自の見解であつて採るを得ない。

同第三点について、

しかし、本件における法人税法三〇条に基づく決定通知は、所論(2)の場合にあたるものとしてなされたものであること判文上明らかであるから、論旨は採るを得ない。

同第四点について。

しかし、申告義務ある者が申告しない場合、納付すべき税がない旨を申告した場合、税務官庁が一方的の賦課決定ができるものとは、法人税法三〇条によつて明らかであるから、論旨は採るを得ない。

同第五点について。

しかし、被上告人の見解によれば、所論帳簿等を調査するまでもなく計算に誤りがあることになるから、論旨は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に從い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

昭和三五年(オ)第一四七三号

上告人 青木メリヤス製造株式会社

被上告人 北税務署長

上告代理人水田益男の上告理由

第一点 原判決は、第一審判決を相当とし、従つて本件控訴を理由なきものとして、之を棄却すべきものと認める。その理由は次の(1)ないし(3)の判断を附加するほか、すべて原判決の理由の記載と同一であるから、之を引用する。

と判示してあるが、これは理由の附加ではない変更であり、しかも税法の規定を無視し、非常識極るものである。

1.法人税法第二五条、法人は政府の承認を受けた場合においては云々とあつて承認は法律行為として特定の効果を生ずるものである。

2.若し青色申告の申請が不適格の場合は却下せらるべきものである。

3.第一審判決が即時承認したと判示したのは洵に合法適当なものである。原判決がこれを「被告が即時異議なくこれを受理した」と変更したのは税法の規定を無視した違法の解釈といわねばならぬ。

第二点 昭和二七年度の法人税に関し被上告人が上告人を青色申告の納税者として、前項の承認をした以上、これが取消あるまではドコマデモ青色申告の納税者であり、其の取消の事実がないことは当事者間に争いない本件は、昭和二八年度において繰越損金の控除を認むべきものであることは法規上明白な事実であり、又被告人も昭和三〇年九月会計検査院より指摘を受けるまでは上記の通り取扱をしていたのである(上告人の主張の正当なることを裏書する証左である。)

青色申告承認申請の時期に関する規定は本来訓示的規定であつて、帳簿、書類の適格性を有するものは多少申告時期が遅延したものでも税務官庁によつてこれを承認しておるのは顕著な事実であつて異例ではない。青色申告制度の本来の趣旨に鑑み洵に当然のことである。

又仮りに青色申告提出の時期が遅れ、違法のものと仮定するも、其の承認は今日まで取消がないのであるから、青色申告の納税者として処理すべきものであり、本件の更正決定が違法のものであることは理論上当然のことであるにかかわらず請求棄却の判決を為した原判決は税法の解釈を誤つたものといわねばならぬ。

第三点 本訴は訴状に明記してある如く昭和三〇年九月二一日付で行つた、自昭和二八年一月一日至同二八年一二月三一日事業年度法人税等の更正決定の取消を求めているもので右の行政処分は(1)再調査の請求、(2)審査請求、(3)審査決定を経て、(4)本件行政訴訟となつたものである。

然るに原判決は、右の更正決定は法第三〇条の賦課処分なりと認定しているが同条を適用する場合は

(1) 政府が納税義務あると認める法人が申告書を提出しなかつた場合。

(2) 又は納付すべき法人税がない旨の申告書を提出した場合に政府の調査では納付すべき法人税があつた場合に限定してあつて本件はこれに該当せぬ。即ち上告人は青色申告の納税者であり(当事者間に争いがない)成規の納税申告をしておるのであるから前掲の(1)(2)に該当せず。

従つて前掲の更正決定の当否を判断するのが本訴の主要目的であるのにかかわらず、此の点につき何等の判断をせず漫然上告人に敗訴の判決を下したのは主要なる争点を逸脱した違法の判決といわねばならぬ。

第四点 申告納税制度下では税務官庁の一方的の賦課処分はこれを許されぬ。

(1) 若し納税申告無き場合

(2) 零の申告を為した場合

において税務当局が調査し、納付すべき税金ありと信じた場合においても単純賦課処分は出来ぬのである。必ず更正決定の形式によるべきものである。

原判決の理由未段に

(3) 本件課税処分の標題に、再更正決定と記載されているのは誤りであつて、之は、昭和二七事業年度の繰越欠損金を否認する旨の法人税第三〇条に基く決定通知書と見るべきものであるがこの誤りは、課税処分の効力に影響を及ぼすべきものではない。

と判示したのは、我国申告納税制度の根本原則を無視した誤つた見解であり、如何に特別法だからといつて其の調査、研究の杜撰なること驚くの外ない(此の場合でも必ず更正決定の方式に従うべきものである。誤りは判決にあり更正決定の標題は正当である)(甲第四号証の大阪国税局長の審査決定に対し本訴を提起したもので審査決定の理由を参照せられよ)。

第五点 上告人が昭和二八事業年度において青色申告の納税者であつたことは当事者間に争いがない。そして法人税法第三一条の四〈1〉政府は「青色申告書を提出することができる法人の青色申告書を提出した事業年度について、第二九条乃至第二一条の規定による課税標準若しくは欠損金額又は法人税額の更正又は決定をなす場合においては、当該事業年度分の申告書につき第二五条第八項後段の規定の適用があつた場合を除く外、その帳簿書類を調査し、その調査により課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り、これをなすことができる」とあり、本件は甲第四号証審査決定書に明記してあるように「青色申告書提出承認申請が適切でありませんので、これを棄却したとあり」前記法条に該当せず、更正決定は法律上これを許されぬのである。

かかる見易き道理を無視して上告人の請求を棄却した原判決は違法のもので破毀せらるべきものと信ずる。 以上

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